賃金上昇や業務自動化では人手不足の解消にはならない!
日本で現在~将来にかけて大きな問題となっているのが、企業や店舗の『人手不足』です。
保育士や介護士、配送業などはニュースで度々報道されていますし、街中をあるけばスーパーもファミレスもコンビニも、アルバイト募集のポスターを大々的に貼っている店が目立つようになりました。
コンビニなどは特に近年利用客も増えているだけでなく、一人当たりの業務も増えたことから、賃金の上昇を希望したり、機械によるオートメーション化の導入を検討しているなんて話があります。
実際にローソンなどでは、オートメーション化の準備を着々と進めているようです。
○参考記事○
コンビニのレジ、ロボが会計 ローソンとパナソニック:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ12I6N_S6A211C1TI5000/
でも個人的には、賃金を上げても業務の自動化が進んでも、人手不足の問題はそう簡単には解決しないように思います。
・賃金上昇の弊害
コンビニのアルバイトは、その仕事量や種類の多さに反して、給与が低いと言われています。
安く雇われる理由としては様々な理由がありますが、その一つとして「誰でも出来る仕事だから」というのがあります。
実際、東京のコンビニなんかに行くと、日本語もままならない外国人がレジ打ちをやっている店がほとんどですから、あながち間違いではないのかもしれません。
賃金を実際に上げた場合どうなるのかと言うと、一時的に人手不足は解消出来るかもしれません。
ただ、例えば半径100m以内にコンビニ店舗が3つあったとして、その一箇所が賃金を上げたら、当然他の二店でアルバイトをしている人達は、そちらの店舗で働いた方が得だと考えます。
アルバイトですから、辞めやすい人から辞めていきます。新規でアルバイトを始めようとする人も、時給の高いコンビニへ行きます。
経営者は同じように賃金を上げるか、残った人手で何とか切り盛りするかの二択を迫られます。
しかし、人手が減って売り上げが下がることはあっても、人手が増えて売り上げが上がることはなかなかありません。
というより、売り上げは立地や駐車場の有無など、経営よりも土地などの影響の方がよほど大きいです。
賃金を上げられない店舗は働く店員がいなくなり、結果として営業が続けられなくなってお店を畳むことになります。
というか、今現在起こっている人手不足の問題がこの通りになっているんです。
就職氷河期ならまだしも、今はバブル期よりも高い有効求人倍率になっている、なんてデータもあるんです。
○参考記事○
有効求人倍率1.63倍 7月、求職者減り高水準続く:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL30HMA_Q8A830C1000000/
また、店舗数が減れば、当然利用客は既存の店舗に流れるようになります。
例えば3店舗合計で1日あたり200人が利用していたとします(数字は仮のものです)
1店舗平均66.6人だったのが、店舗が減るごとに上がっていくため、1店舗の売り上げは確かに上がりますが、それに比例して1時間あたりの労働量も増えます。
分業出来るような仕事ならまだしも、コンビニアルバイトのように、一定以上は人を増やしても意味がない(むしろ効率が悪くなる)仕事は、一人当たりの労働量を増加させるしかありません。
たとえ沢山のアルバイトを抱えていたとしても、労働量的に長時間や何日も続けては働くことが出来ないとなると、結局のところ、時給は上がっても月単位や年単位の収入はそんなに変わらないことになってしまいます。
無理してでも長時間働けるのは若い人の特権かもしれませんが、そういった人達は大抵学生やフリーターなので、平均勤続年数は低いため、要は店員が流動的ということになります。
そのため、経営者は店舗の売り上げが上がっても、新規のアルバイト採用や研修、管理などに追われることになるので、店員と同様に売り上げの分だけ労働量を増やすことになります。
つまり、
賃金(売り上げ):上昇
労働量:上昇
これって、状況は何も変わっていないんです。
・自動化すると、何が変わるのか
レジの自動化は中国のコンビニや、Amazonが手がける実店舗などで海外では既に導入されています。
日本国内でも、遅かれ早かれそういった店舗が増えていくのは自然の流れと思います。
コンビニ業務が自動化するというのは、単純に言ってしまえば「コンビニが自動販売機になる」ということです。
自動販売機になるということは、それまでの人権コストがいらなくなるだけでなく、店舗の大きさも縮小できるということになります。駅のキオスクなんかが分かりやすいかもしれません。
1つのお店が小さくなれば、開業リスクが下がりますので、今まで土地の広さや立地が理由で展開できなかった場所にもコンビニを建てることが出来ます。
利用者にとっては前より近くにコンビニが出来るのは便利なことです。
また、地主なんかも余らせていた土地を有効活用出来るので、投資材料の選択肢にもなります。
とはいえ、開業リスクが下がるということは、それだけ他の店舗も多くなるということです。
フランチャイズ店舗のコンビニは、他店との大きな差別化はなかなか出来ません。また自動化を主とした店舗であれば尚更です。
そうなると、ゲーム理論で言う「ナッシュ均衡」という現象が起こり、単純に言えば「100mあたりの売り上げが店舗ごとに均等に振り分けられる」結果になります。
店舗数が増えれば増えるほど、1店舗あたりの売り上げは下がっていきます。
先ほど書いたように、売り上げは経営よりも立地や環境に左右されるのですから、当然経営出来ないお店が出てきます。
1つのお店が潰れても、開業リスクは低いのですから、土地があればまた別な店舗が産まれます。
そういったように、店舗を経営するのではなく「店舗を何処に設置するか」という競争になってしまい、最終的にはどのお店も売り上げが最低限しか稼げない、という状況に陥ってしまうと考えられます。
また、オートメーション化と言っても、いきなり全ての業務が自動化できるわけではありません。
そのため、店舗数が増えれば増えるほど、機械では対応出来ない人の仕事は増えることになります。
例えば商品の配送業務は、まだ完全自動化するまで時間が掛かると思われます。
そうなると、配送業者の人は、何店舗も回らなければならなくなります。
そして配送業も深刻な人手不足となっています。
このようなことから、自動化して増えるのは店舗の数だけ、ということにすらなり兼ねないのです。
・どうすれば解消される?
Twitterでこのコンビニの話をツイートしたところ、このような意見を頂きました。
“例えば社員割引(割引率5%ぐらいからスタート)システムを適用したら働くことに旨味が出ますよね♪そして勤続年数に応じて割引率が増えるシステムだったら、定着率も見込めて人手不足の解消に効果的と思います”
一見良さそうに思えますが、これって年功序列そのものです。
「長く働けば働くほどお得」ということは、長く働かなければ損をする、ということになります。
社員割引率の増加率も、普通に考えればある一定の年数で鈍化するので、そこに差し掛かる前に辞める人も多くなるでしょう。
また、初めから社員割引がある場合は、アルバイトではなく割引目的の人も出るかもしれません。
そうなると「社員割引で生活用品や保存食を買い込み、アルバイト初日で辞める」なんて人も出てくるでしょう。
そういった結果、引き起こるのは「今以上に一人当たりの平均勤務日数は減少し、辞めるに辞められない人だけが残る」ことになります。
・じゃあどうすればいいの?
どんな方法を取っても、何かしら問題は起こり、きれいさっぱり解決という話にはならないと思います。
私なんかは人手不足解消のために、インスタ映えするような社員の制服や店舗にすることによって「そのお店で働いていることがアイデンティティになる」という、外的報酬よりも内的報酬に注力した方が良さそうに思っていますが、それこそチェーン店では現実的ではありません。
ただ間違いなく言えることは、どんな方法であれ、絶対に「得する人と損する人」が出てくるわけです。
賃金を上げた時に誰が損を被るのか、オートメーション化した時に誰が得するのか?
それを考えていくと、自ずと職業選択で失敗する確率を減らせるようになります。